• 開業を経験された司法書士様の
    体験談をご紹介いたします。


  • 原子 忠之 様
  • 『ひびきグループ』
  • ■開業地:愛知県名古屋市 ■合格年度:平成20年 ■開業年度:平成27年
    ■ホームページ:http://harako-js.com/
  • 入念な準備はすべての道に通じる ―――
    開業を経て手に入れた一生ものの武器とは?
  • 事務所名の由来はなんですか。
  •  事務所名は、いろいろ考えた結果、最終的には開業前に勤務していた事務所のメンバーの意見を聞いて決めました。当時他に挙がっていた候補はもう覚えていないんですが、自分の名前を入れた事務所名にするのは気が進みませんでした。将来的には法人化をするつもりでしたし、個人事務所っぽい雰囲気になってしまうのが嫌だったんですね。でも、周りに相談したら、ダントツで「司法書士はらこ事務所」がいいという話だった。そこで、今まで一緒にやってきたみんながそう言うならそれもいいかもなと思い始めました。いったんそう考え始めると、ひらがなのやわらかさだったり、名前そのものの珍しさは特徴になるのかなと。あとはそこから派生していったコーポレートカラーやシンボルマークなども含め、総合的に良い選択だったと思っています。
  • 司法書士を目指した目的、あるいはきっかけを教えてください。
  •  いろんな仕事をしてきた中で、将来のことを考えたときに何か武器がほしいな、と思っていました。また、それほど明確だったわけではないものの、「いつかは起業したい」という思いもありました。そんな時に、独立のできる資格として司法書士に行き着きました。それまで法律の勉強をしていたわけでも、知人に司法書士がいたわけでもなく、まだ債務整理がクローズアップされてもいない時期で、司法書士の仕事は全然イメージ出来ていませんでした。正直に言えば、試験合格に向けて尋常でない量の勉強をすることの対価として見合う職業なのかどうかも、目指している最中に確信できていたわけではないように思います。そんな中でずっと仕事しながら勉強。最後の年は仕事をやめて受験に臨んで。自分を追い込むために、というよりは、追い込まれていたという表現が正しい気がします。その頃には、他に選択肢がないように感じていました。

     ある意味無謀に聞こえるかもしれません。でも他の司法書士の方も、よほど長い業界経験の後に資格を取得されたとかでなければ、覚悟という点ではどこかしら同じなのではないかと思います。当然ですが、実務経験を積み開業もした今では、受験時代とは違って先のビジョンがあるし、うちの事務所にしかできない仕事があると感じる。司法書士になってよかったと思うし、あの時他の可能性に逃げなかった自分が間違っていなかったと思います。

     ただ、その一方で、お客様との関係の中では、必ずしも司法書士の資格にこだわらないといけなかったわけではないとも思うようになりました。仕事を通じてお客様に喜んでもらえることこそが一番。たとえ司法書士ではない、違うかたちの仕事であったとしても、同じように喜んでもらえるサービスを提供できる自信が今はあります。もしかしたら、それこそがあの頃ほしかった武器なのかもしれませんね。
  • 開業地を選んだ理由はありますか。
  •  ここ名古屋市緑区の徳重エリアが今大きく発展している状況であることと、あとは人口に対する司法書士の比率が自分の基準に合っていました。開業よりもずっと前から住んでいる自宅が近いことも理由ですね。この地域が持っている穏やかな雰囲気が好きです。
  • 開業時の予算はどのくらいでしたか。予算内に収まりましたか。
  •  800万くらいです。お金は借りられるときに借りておいた方がいいと聞いていましたし、融資を受ける前提だったので、開業資金はそこまで貯めていません。事業目的・理念、ビジネスモデル、成長プランなど、長期的な事業計画を作りこんでプレゼンしたこともあってか、銀行側はもっと借りてほしいくらいの感じでした。当座の運転資金に余裕を持たせていたのが、後々の事業展開に非常に役立ったのは確かです。
  • 開業時に工夫されたことはありますか。
  •  とにかく準備に尽きると思います。開業の半年程度前から色々な準備を始めました。先ほどお話しした事務所名やコーポレートカラー、シンボルマークの検討もそうですし、ブログを実際の開業よりかなり前の段階から、独立開業準備ブログと名づけて始めたり、異業種交流会など士業が集まる場所にも早くから顔を出していました。あとは先輩の話を聞きに行ったりとか。

     なかでも事務所ホームページについては、公開に先立ってまとまった量の記事を用意しながら、事務所の顔としてどのような内容にするのか工夫しました。司法書士事務所というと固くて敷居が高いイメージですが、気軽に相談できる事務所にしたいと考えていて、それはホームページの雰囲気もそうですし、お客様が今まさに知りたいと思われている事柄について、いかに平易な言葉で説明がされているかも大事、その時々のニーズに敏感である必要もありますよね。一番は、自分がそのお客様の立場だったらどうかということをよく考えました。電話をかけていただく前の気持ちだったりだとか、いざコンタクトをとった時にどういう感じで話を聞いてもらいたいかとか。それらのハードルを越えてやっと初めて電話をいただいたとき、いかにそこから心理的負担を感じさせることなく来所していただくか。こちらの思っていることを伝えるのではなく、まずは気持ちを汲み取るということも含めて、人を雇い始めてからは事務所内でそのあたりの意思の統一にも気を配りました。今ではホームページからの集客で多くのお客様にお越しいただいています。
  • 開業時の苦労談、または失敗談はありますか。
  •  特別失敗したことはないですが、開業に半年ほど先立ってした準備を、もっと早くからしておいても良かったんじゃないかと思うことはあります。たとえば人脈作りとか。“権”に関しても、開業に合わせてではなく、もっと早めに導入して作りこみに時間をかけてもよかった。開業直後は思った以上にバタついたので、じっくり取り組む時間は割きづらかったですね。

     お客様からお問い合わせをいただくペースが予想を上回ったために、人が足りていない状況に陥ったこともありました。単純に時間をかけることが満足度の向上に繋がるとは思っていないので、サービスの質は向上させながら、同時にスピードも上げていきたい。当初1年以内にアルバイトのスタッフを1人雇うくらいの計画だったのが、実際は1年で司法書士が3人、補助者が2人の体制になり、その後法人化も果たしたんですが、増えていくニーズに応じた規模にしていく必要は感じるし、法人として大きくしたり拠点を増やしていくという目標も出来ました。

     そのためには、今十分にやれていない分野の仕事を営業で増やしていかないといけないという課題もあります。安定している今の仕事に加えて、自分たちから働きかけて多方面で仕事も作っていかなければいけないなと。

     常に先回りして・イメージして・準備していく、というのはこれからもずっと続いていくサイクルなのだと感じます。
  • どうしてシステムの導入を決めたのですか。また導入して良かったことは何ですか。
  •  司法書士の実務を行う上で、システムを使うかどうかで仕事のスピードや効率性が段違いに変わると考えています。私たちの仕事は、ミスが許されないので、システムを使うことによって少しでもミスを減らせるのであればなおさら、使わないという選択肢は最初からありませんでした。以前に勤務していた事務所では別のシステムを使っていましたが、開業に際し“権”を選んだ理由は、全体を通して使う人の目線に立って作られたシステムだと感じたからです。

     “権”は書類を作成するとき、項目ごとに内容を聞いてきてくれるので直感的でわかりやすいし、それに答えていったらいつの間にか色々な書類が一気に完成している。申請書などを構成していくための最低限の知識は必要ですが、補助者を新しく雇った場合などシステムに馴染む工程が楽だろうなとも思いました。

     一番気に入ったのは、自分仕様に育てていけるところですね。得意先の依頼内容に合わせた定型の案件をあらかじめひな形化しておいて入力の手間を最小限にしたり、オリジナルの書式を作ることも簡単に出来てしまう。準備という言葉をさっきから何度も使っていますが、まさに準備するのにうってつけの仕組みになっている。以前、他の事務所で“権”を使用していた経験のある補助者から、はらこ事務所仕様に作りこんだ“権”がとても使いやすいと好評だったのは嬉しかったですね。
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  • これから開業される司法書士の先生方へメッセージをお願いします。
  •  開業時に検討した項目などをまとめた情報を事務所のホームページに掲載していることもあって、それを見て「今から開業を考えているので相談したい」という人が事務所を訪ねてきたり、全然知らない方からメールが来たりということが結構あるんですね。熱い思いを持って来られる人にはこちらも応えているつもりなんですが、開業を考えている人はやはりみな何かしら不安なんだろうとは思っています。

     私から伝えられることはそれほど多くはないんですが、自分の経験から言えることは、自分なりに目指すところを持って、こういう風な事務所にして社会に貢献していきたいなというビジョンはあったので、そのビジョンが開業にあたって背中を押してくれたのは大きかったと思います。大変なことも多いけど、少しずつ自分の目指す形に近づいているので、開業してよかったと思っています。

     そういったビジョンも含め、開業する人はとにかく準備をしっかりすることが本当に大事だと思います。いつ開業するか目途がたっていなくても、色々なことに思いを巡らせながら準備をする。準備をするからには、徹底的に考える。良いことばかりではなく、むしろリスクについてもよく考える。全然仕事がなかったら、集客できなかったらどうするか、とか。そうするうちに計画が具体的になってくるだろうし、そうした過程を経て開業するのであれば、よっぽど大丈夫です。

     そんなことを言いながらも、私は開業してから軌道にのるかどうかは運も関係していると思っています。そして自分は、お客様にも周りで支えてくれている人たちにも恵まれて、本当に運がいいと思っているし、よく周りからも「運がいい」と言われます(笑)。準備以外にもし何かが必要だとしたら、そんな図太さも必要かもしれませんね。


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