• 印象に残った経験をされた司法書士様の
    体験談をご紹介いたします。


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  • 田中 大介 様 祖父江 華子 様
  • 『ブルーム司法書士事務所』
  • ■開業地:愛知県一宮市 ■合格年度:平成30年、31年度 ■開業年度:令和2年度
    ■ホームページ:http://www.bloom-shihou.com/
  • 司法書士夫婦の遺言業務案件
  • 本日はお忙しい中インタビューのご協力をいただきましてありがとうございます。早速色々とお聞きしたいことはあるのですが、まずは事務所開業にあたってのお話を伺いたいと思います。司法書士を目指されたきっかけやご開業のエピソードなどをお聞かせいただけますか。
  • 【田中先生】元々父が不動産屋をしており、以前は不動産の営業をしたいという気持ちもありました。ただ、不動産屋を継いでもいいけど、違う業種に行ってほしいと言われたことや、私自身も父と一緒に仕事をしたかったっていうのもあって、司法書士と不動産屋の両輪でお客様の対応をすることがひとつの目標になりました。地元で40年以上不動産屋を続けていたのもあって、開業当初に不動産屋さんに挨拶に行く際は、全員父を知ってくれていて、かなり驚かされましたね。

    【祖父江先生】お義父さんの仕事を見てきた方たちに話を聞くと、曲がったことは絶対しないし、立派な人だと言ってくれる人が多くって。

    【田中先生】そんな父の仕事に対する誠実な姿勢が今の私の仕事も繋げてくれてるんだと感じているところです。ただ、私が受験してる途中で、父が癌になりまして、余命4ヶ月と宣告されてしまったんです。余命宣告を受けてからは色々ありましたが、父は1年半、頑張ってくれました。そして、その期間に起こった出来事は、人生を大きく変えることばかりでした。結婚して、司法書士試験に合格して、子供ができて、この司法書士事務所を開業して……本当に密度の濃い時間でした。丁度その時期でしたね。事務所の場所も決めて、開業準備のやり取りをしてるときに父が亡くなりました。司法書士を目指したきっかけとして、父と一緒に業務をしたいというのがありましたが、全部今から始まるっていうまさにそのタイミングでしたので、そこまで見届けたかったと思ってくれたのかな......っ。あ、我慢できなくて。すみません......っ。孫にも会えたし。実際、父はかなり喜んでくれていたようで、少し気持ちが軽くなりましたね。

    【祖父江先生】亡くなる前日に孫と会えたんだよね。「もうほんとにいい半年だった」って最後に言ってくれました。

    【田中先生】こんな父に影響を受けたこともあり、横綱相撲のように、正攻法でやっていくというのが大事なことだと思いました。正攻法で行かないと、延々と小手先だけで仕事を続けていくことになると思うので。事務所としてはこれからですが、蓄えた知識を使って皆さんにメリットを伝えていける様に、司法書士が行うことの意味を常に考えながら、責任をもって業務を進めて行こうと思います。
  • お父様の誠実なお仕事と人柄が今の先生のお仕事につながっているんですね。他に開業準備などで印象に残っていることはありますか。
  • 【祖父江先生】私たちが開業したのが令和2年3月ですが、令和1年12月から免許証と住民票に旧姓を表記することができるようになったので、旧姓登録したかった私にとってはいいタイミングでした。今まで先輩女性司法書士から、旧姓登録するなら、旧姓の口座を残しておかないと絶対困るといった話は聞いていましたが、この制度のおかげで旧姓でも新規に口座開設ができるようになりました。
  • インターネットバンキングやクレジットカードの口座連携などももう旧姓対応しているんでしょうか
  • 【祖父江先生】ある信用金庫さんだと、旧姓で口座を作れてもオンラインバンキングまでは旧姓でやれるシステムが作れてないと言われて全然使い物になりませんでした。クレジットカードのオペレーターも「旧姓と新姓の繋がりが証明できないので......」なんて言うもんだから、住民票と免許証に旧姓が表記されている旨も伝えましたが結局どこもダメでしたね。
  • そうすると今の時点ではまだ旧姓表記の不便さはあるんでしょうか。
  • 【祖父江先生】実は宅建士証なんかも令和2年10月から旧姓併記が始まりました。不動産業開業のタイミングというのもあって、こちらは10月入ってすぐに旧姓で宅建士証を作りました。新しい制度で、働く女性達にとってのメリットも感じつつ、まだまだテコ入れが必要な気がしています。
  • 今後も働く女性への支援的な取り組みとして期待したいですね。色々と制度や仕組みが変わる中で先生方の知識の研鑽や情報収集も更に重要になってきそうです。それではその辺りも踏まえてそろそろ本題に入りたいと思いますが、そういった知識や情報収集の重要さが感じられた印象深い案件についてお聞かせください。
  • 【祖父江先生】今回お伝えする案件も、情報収集、既知の知識を深堀りする必要がありました。税理士さんからご紹介の案件でしたが、遺言を作りたいと仰っていた依頼者のおじいちゃんにお会いしたところから始まりました。 おじいちゃんに「遺言を書くのなら、財産一覧とかわかるものありますか?」とお聞きしたら、後日ご自身で財産の説明資料をWordでまとめてくださいまして、そちらをお預かりしました。その後頂いた資料を基に詳細な話を始めましたが、「実は資料には書いてないけど会社もある。」と、資料には記載のない会社が結局6社も出てきたんですよ。それを探すのが大変でした。

    【田中先生】その方、会社を6社経営してたんですが、結構昔の話なんですよね。「会社名も覚えてない」とおっしゃられて、場所も正確な住所がわからないとの話でほとほと困りました。

    【祖父江先生】どうにかして探してあげたいと思って、法務局に聞いたのですが、さすがに商号と住所くらいは特定してくれないと探せないということでした。代表取締役になっている方のお名前で検索とかはできないみたいですね。

    【田中先生】それで、やっぱり頑張って思い出してくださいとお伝えしましたが、たまたま家に古い名刺があったので、検索したところ結局会社が6社出てきたんです。いや~良かったですよ。 しかし、これが終わりではありませんでした。そのうち3社が閉鎖してなかったんです。なので、閉鎖していきましょうと持ちかけ、内訳を確認していると、みなし休眠になってる会社となってない会社の両方があったんです。みなし休眠になっていなかった2社のうちのひとつは有限会社でした。会社を閉める時は、債権の取り立てや、負債、財務財産とか記載した書類を作る必要があるのですが、データがなにもないんですよ。閉鎖できない。しかもみなし休眠になっていなかったもうひとつの会社が多数の不動産を所持していまして。

    【祖父江先生】その不動産も全部売れない不動産で......昔事業をやってた過程で買われたそうなんですが、全部△△県の山なんですよ。条件的に誰も買わない。☐☐県には場所自体は悪くなさそうな1筆があったんですが、こちらは周囲を囲まれているような、形が悪い土地でした。

    【田中先生】かなり厳しいと感じましたが、隣地の人も全部探して、隣の土地を持っているのが会社だったので、調べて電話をして、「隣なんで買ってもらえませんか」ってお願いしてみました。ところが、その会社も、隣の別の土地に通行地役権を持っていて、通行できるのにわざわざ購入する必要がないとのことで......。他にもちょっと興味を持たれた方や現地の不動産屋に話を持ち掛けてみたりもしましたが、やはり土地の形が悪いということで購入してもらえませんでした。しかし、遺言は財産全部を入れる必要があるので、悩みましたが「会社名義の財産は全部奥さんに移すしかないので移しましょう」とお伝えして、奥さんに移させて頂きました。

    【祖父江先生】さらに所持している中にホテルの持ち分が2件あったんです。その登記簿を取ったんですけど、1通が滅茶苦茶分厚いんですよ。片方はギリギリ登記簿出せたんですが、もう1つは出せなかったです。そこで初めて知ったのですが、こういった案件を「ワーニング物件」と呼ぶそうです。

    【田中先生】ある一定のページ数になるとワーニングとなって、現地の法務局に行って出してもらうしかないようです。今回はどうしても遺言書の関係で所有者であることを証明しなくてはいけなかったので、相談したところ、所有者事項に変えてもらったら出せるということで変えて出してもらいました。ワーニング物件の登記簿を出すこと自体が珍しかったようで、ベテランの職員さんが他の職員の方に、「一定のページ数を超えた場合はこういう風になるから~」ってワーニング物件の説明が始まっちゃって。僕ずっとそこで待ってるんですけど、臨時で特別な事例講習会みたいになってました(笑)。

    【祖父江先生】他にも、ソーラーパネルも持ってらして、売電もされてたんですよ。売電債権の名義変更は簡単と聞いていましたが、調べたところ国の設備認定が必須というルールがあり、そんな簡単にはいかないんです。設備用にIDやPWがあって、亡くなる前に調べておかないと非常に煩雑な手続きになる仕組みで、しかも手続の確認先はマニュアル対応なので、頑張るしかない(笑) 。

    【田中先生】設備認定の担当の方にお聞きしましたが、相続登記の場合、仮に遺言書が残されていたとしても、そんなものは関係ないみたいで、特定の書式で、結局みんなの印鑑押してもらわないとダメだそうです。「法律だったら、遺言書あったらいいじゃないですか?」って話をしたんですけど、「イヤ皆さんそうやっておっしゃられるんですけど、うちのルールで。」と切なくなるようなやり取りでした。そんなこんなで最終的に遺言書が出来上がったときには、苦労した分喜びも一塩でしたね。
  • 遺言を残さないと大変なことになる例の一つですね。依頼者との話し合いの中、実際の遺言執行の際を配慮してお二人が準備されたのが伝わってきます。肝になる本人の付言事項は、お手紙などをしっかり書かれたんですか?
  • 【祖父江先生】そうですね。お手紙の部分は、2ページを越えました。付言事項は本人が書いたんですが、私たちがやったのは、誤字脱字を直したくらいでしたね。まとめてもよかったんですが、そのままの文面の方がおじいちゃんの気持ちが出ていて、文章もぐっとくるような感じでしたので。拝見したこっちが感動してしまって、私達が手を入れるよりもこのままの内容でとなりました。

    【田中先生】財産の分け方もすごい平等で。財産が残ってると思っていないみんなに驚きを与えたいけど、分配は公平にと依頼者の想いがあり、現金以外の方法を取りました。見栄えはしますが嵩の大きい金塊ではなく、小分けしやすい金貨で残されることを選ばれまして、500枚とか枚数は多くなるんですが、その分色々なケースに合わせて分配できるようになっています。

    【祖父江先生】ただひとつ気になったのは、今は置き場所を誰も知らないということですね。正直教えてもらわないと困るんですが、気持ちを聞いてしまうと。遺言に書く時もホントに500枚あるかわからないので、なかった場合の分け方とかも含めて、もしこうだったらどうするかをパターン別にして、沢山シュミレートするお手伝いをさせて頂きました。念のため、絶対に奥さんには亡くなる前に置き場所を教えておいてくださいとは言ってあるんですよ。

    【田中先生】相続人の方たちにとっても、付言事項に込められたおじいちゃんの想いが伝わることで、無用な紛争は避けられるのではないでしょうか。そこまで司法書士がやることではないと言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、色々な出来ることをお手伝いをさせて頂いた結果、依頼者のおじいちゃんには勿論喜んで頂けましたし、相続人の方や私達にも満足できる遺言になったんじゃないかと思います。折角、縁があってお会いできた方達ですので、今後、司法書士業務を進めていく上でも、頼んでよかったと心から満足いただけるような事務所でありたいと思います。


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