• 開業を経験された司法書士様の
    体験談をご紹介いたします。


  • 青木 文子 様
  • 『 青木文子司法書士事務所 』
  • ■開業地:岐阜県 ■合格年度:平成20年 ■開業年度:平成22年1月
    ■ホームページ:http://www.pollano.com/
    ■アナザーライフ 人生インタビュー:http://an-life.jp/article/241
  • 出産育児中の受験、合格を機に社会のステージへ復帰。
    生涯フィールドワーカーが仕事に込めた想いに迫る!
  • 事務所名の由来はなんですか。
  • 候補は色々あったんですが、最初『山猫司法書士事務所』という名前にしようと思ったんです。宮沢賢治がとても好きだったので、彼の児童文学『どんぐりと山猫』からとって。でも由来がわからない人が見たときに司法書士事務所の名前としてどうなのかということで、たくさんの方から反対されまして(笑)。色々考えた結果疲れてしまって、最終的には自分の名前の事務所名に落ち着きました。結果的に良かったなと思うのは、私が女性だということが事務所名からわかることですね。インターネットで調べて私のホームページを見て事務所に来られる方が多いんですけど、相談に来られて帰られる際にいつも伺うんです、「どうして私の事務所に来てくださいましたか?」って。そうすると、「女性だったから」「ホームページに顔写真が出てたから」と答えられることが多くて。私たちが思っている以上に、相談する相手が女性なら安心だと皆さん思われるようですね。
  • 司法書士を目指した目的、あるいはきっかけを教えてください。
  • 私は法学部出身でもなんでもないんですけど、(出産をきっかけに)もういちど自分が社会のステージに戻るためにどうしようかと考えたとき、資格を取ろうと思って。数ある選択肢の中で司法書士はすぐ独立出来るのが大きな魅力でした。私には息子が2人いて、勉強を始めたのが上の子が4歳、下の子が0歳の時で、そこから丸4年かかりました。「子供が同じ空間にいるときは勉強しない」っていうルールを自分の中で決めて、それ以外は全部勉強。土日は保育園が休みなので勉強もお休みで、夏休みだったり、お正月だったり、そういった全く勉強できない時期を除けば、朝3時に起きるところから始まって、1日9時間確保するのが限界でした。4度目の試験で合格だったので、それまでは不合格のたびに子供がなぐさめてくれて。「来年も頑張れ-!」って(笑)。

    大学時代の最終専攻が民俗学だったんですね。佐渡島の山奥とかに1週間行って、公民館に泊まって、村のおじいさんおばあさんから延々話を聞いて歩くみたいなフィールドワークをずっとやっていたんです。大学の恩師からは大学院に残る道を勧められたんですが、結局就職する道を選択することになったときに、「どこに行ってもフィールドワークは出来る。どこに行ってもそこに人がいる以上、その人と会って、その人の背景を聴いて、物語を聴くっていうのがフィールドワークなんだ」と言って送り出してくれました。

    私にとって司法書士というのはいまだにフィールドワークなんです。それがたとえば立会決済かもしれないし、多くは離婚とか成年後見とか未成年後見の相談だとか、その人の人生があって、その人の人生を私に話してくれて、私が何かそこにかかわることが出来るっていうのは、フィールドワークをしているという意味では大学の頃からずっと一緒のことをしている感覚です。

    司法書士の業務のなかで、たとえば書類を作るのなんかは苦手なので、そこは“権”みたいな登記のシステムに任せる部分は多いです。でも人にお会いして何かを聴かせてくれる、ここでその人の物語が語られることで、その人の人生がそのあと何か変わる予感がすることはよくあって、それを偶然私が聴いているだけなんですけど、だとしたらよくよく聴きたいと。それで来られた人が来られたときより笑顔になって帰って行かれたら、それこそが私の仕事ではないかと思うんです。
  • 開業地を選んだ理由はありますか。
  • イメージですけど都会の喧噪の中で生き馬の目を抜くような仕事のやり方はあまり自分には向いていないと思った部分はあります。それよりも、ひとりひとりの顔が見えて、じっくり時間をかけて、件数は多くなくても丁寧に仕事をしたいと思いました。家族のこともあったので実現はしませんでしたが、過疎地開業にも興味があってすごく悩んだんですよ。より人に近い場所で、その人の顔が見えて、その人が笑ってくれて、という仕事が出来るのであれば、是非やってみたいと思って。あと同期の方が石垣島で開業していて、徒歩5分でダイビングスポットらしくて、とってもうらやましいですね(笑)。
  • 開業時の予算はどのくらいでしたか。予算内に収まりましたか。
  • 最初は配属研修先の事務所で、このまま机使っていいよと言ってもらってその先生の事務所内で開業したんです。だからそのときはほとんど費用はかかっていなくて、それから1年くらい経った頃に本当の意味で独り立ちして今の事務所を借りました。総額で考えるとだいたい200万円を少し超えるくらいの額だったと思います。とはいってもすべて現金で支払っているわけではなくて、たとえば配属先のご縁もあって導入した“権”だったり、複合機だったりはリースにかけて月々の支払いにしたので、実際にその時貯金から支払った分は一部だけなのでそれほどかかってはいません。

    ただ、もちろんいずれ独立するつもりではあったけれど、いざ一人で仕事を始めたときに経費を払っていけるかは不安でした。それが独立する前の足かせになっていた部分はあると思います。同期からは「いつまで人のとこにおるんや」と言われたりしながら(笑)。
  • 開業時に工夫されたことはありますか。
  • インターネットで仕事が出来るようにしたことですね。実は私の事務所には電話線を引いていないんです。電話やFAXなどすべて有線ではなくネットでまかなっていて、事務所に縛られずたとえどこにいても同じ状況で仕事が出来るようにしたかったので、そこは譲れませんでした。たとえば外出時にお客さんからFAX送ったよと連絡が入ったときに、事務所に戻らなくても手元で確認してその場で返信できる。時間があまりないので、かけなくていい時間をかけないというのが、工夫といえば工夫になると思います。余分な仕事は省きたい。そして省けることは世の中にたくさんある。登記システムの導入もその一環です。

    そういったかたちで、今は自分のいる場所が事務所だっていう風に仕事をしていますけど、事務所に人を雇うのは課題だと思っていて、理想的には自分がいなくてもすべてが回っていくかたちを作りたい気持ちはあるんですね。でも結局私がお客さんに会いたい、話を聴きたい。私が会いたいんだったらそれを人に任せるのはどうかな、もったいないなとも思ってしまうんです(笑)。

    あとはFacebookの広告を試してみたり、仕事がないときに事務所のホームページにちまちまリンクを張ってみたりしていました。今ではたとえば『岐阜 司法書士』で検索するとかなり上位に表示されるようになったので、一定の効果はあったと実感しています。
  • 開業時の苦労談、または失敗談はありますか。
  • 特別大きな失敗というわけではないんですが、色々と、思い込んで失敗、というのが多かった気がします。だから迷ったら必ず確認、必ず一本電話を入れる、という癖をつけるようにしました。何度も何度も電話をしてこの司法書士うるさいなぁと思われないか心配になったことはありますけど、もし自分がお客さんだったらうるさいと思わないだろうなと。この仕事を大事に大事に思ってくれてるからこそこまめに連絡をいれてくれるんだと思うだろうと。だから他の司法書士が3本の電話で済むところを自分が10本になってでも、電話しようと。相手の立場にたって、報告もかねた確認というかたちをとれば、お客さんにも喜んでもらえたりするんですよね。
  • どうしてシステムの導入を決めたのですか。また導入して良かったことは何ですか。
  • 配属研修の時に、当時まだそれほど利用率の高くなかったオンライン申請を積極的に利用されている配属先を強く希望したんですね。それで受けて頂いた先生が“権”を使われていたこともあって、私の司法書士人生は最初から“権”とともにあったので、正直“権”のない仕事というのは考えられないです。

    情報をどういう風にかたちにしてどういう風にアーカイブしていくか。そう考えたときに“権”に限らずシステムというものを使わないのはもったいない。たとえば今みたいな年末年始の時期はボタンひとつで事件簿が出るとか。とはいいつつ、今でも十分便利に使えているとは思うんですけど、たぶん“権”の機能の7割も使いこなせていないんじゃないかなというのが本当のところですね(笑)。
  • これから開業される司法書士の先生方へメッセージをお願いします。
  • この仕事はずっと山あり谷ありです。私は不動産業者だったり銀行ではなく一般のお客さんの仕事が多いので、まったく先が読めないというか。もうそこは悩んでもしょうがないので考えるのはやめました。

    よく司法書士は開業直後1ヶ月とか電話が鳴らなかったりするので、もしかして電話機が壊れているんじゃないかと思って自分でかけてみたらちゃんと鳴ったという笑い話があるんですけど、本当に何人も同じように話されるのを聞きます。いま大きく仕事をされている先生方も、誰しもそこから始められているわけなので、そこで挫けていてはいけないですね。

    司法書士にはまだまだやれることがたくさんあると思っています。思いも寄らないところで、これは司法書士に頼めばいいんだという仕事はこれからももっともっと作れるんじゃないかと思うので、若手の方たちと一緒に頑張っていきたいです。

    ひとつの職業がこれからどういう趨勢をたどっていくかっていうのはそのときそのときに携わっている人の気持ちの熱さだと思っています。忙しさの中で周りを見渡す余裕がなかったり、地道な積み重ねの部分でつまらなく感じる部分がもしかしたらあるかもしれないけれど、若手の方たちが持っている熱さは大事にしてほしいですね。


Page Top↑