• 印象に残った経験をされた司法書士様の
    体験談をご紹介いたします。


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  • 山下 由貴 様
  • 『ゆき司法書士事務所』
  • ■開業地:福岡県久留米市 ■合格年度:平成25年度 ■開業年度:平成27年8月
    ■ホームページ:https://www.yuki-shihousyoshi.com/
  • 医療従事者から司法書士へ。やるべき人として導かれた後見業務
    被後見人さんは、自分の身内という感覚で、楽しみながら熱意を持って
  • 山下先生は成年後見業務を数多く受任されていると伺いましたが、いまはどの程度されているんですか?
  • 後見は、今確定してるだけで15件ですが、今度申し立てを1件するので、全部で16件になります。事務所は1人でやっているので、登記やその他の仕事も重なりかなり大変ではありますね。
  • どうしたらそんなに後見案件を受任できるんですか?
  • たまたま成年後見業務に関係する委員をしていたり、市民向けの成年後見人の講師をしたことで依頼が増えました。また、後見業務を通じて知り合ったケアマネージャーの方が事業所に私を紹介してくれて、そこからもたくさん依頼を受けました。どうしても私にやってほしいって言われる案件は私が受任しますが、そうでない案件に関しては、適任と思う司法書士にお願いしています

  • もともと先生が看護師をされていて、人の気持ちに寄り添いお世話をするといった経験が、後見業務に活かされているのでしょうか?
  • 後見業務と看護師の仕事は関係ありませんよ(笑)でもたしかに、高齢のお客様への接し方については、かなり慣れている方かもしれませんね。被後見人さんを病院に連れて行った時も、周りから見ると、どういう関係かすごく不思議がられるんです。親子とか孫とかの関係じゃなさそうだけど、すごくよく面倒をみてて、どういう関係ですか?って聞かれたことも。看護師だったことで他の方と違う点があるとすれば、病状や治療についてわかることですね。被後見人の方に何かあった時、施設の方も安心して頼ってくれるところですかね。
  • 看護師から司法書士になった理由って何ですか?
  • よく聞かれるんですけど、私が勤務していた病院が全国規模の病院で、そこで労働組合の委員をしてたんです。そうすると全国の労働組合の人たちと関わったり、労働法や憲法とか勉強するようになって、法律がおもしろくなってきたんですね。なので、次は法律家になろうかなって軽い気持ちで勉強を始めました。その時、私、司法書士の試験が難しいんだとかあまり知らなくて始めたんですよ。知ってたら多分目指してなかったでしょうね。ただ始めたからには、もうやるしかないと頑張りました。看護師しながら勉強して、合格してからも研修の合間に看護師として働いてましたね。しばらくは就職してからも平日は司法書士、週末は看護師という生活をしていました。
  • そんな後見業務で山下先生が特に印象に残っている案件は?
  • どれも印象深いといえば印象深いんですが、私が一番気を遣って注意して行っているのは、家族がいなかったり、あるいは疎遠だったりする方々の案件ですね。ご本人がお亡くなりになった場合の事を考えて、生前から動いています。財産の引き渡しやお墓(遺骨)の問題はもちろんですが、疎遠にしてたけど本心では顔を見たかったとか、お別れをしたかったとかあるかもしれないですよね。だから、ご本人が元気なうちに、どうにかして親族を探すようにしています。金銭的余裕のない方の場合、探すのにお金をかけるわけにもいかないので、なるべくお金をかけずに何とか探せないか工夫をして、どうにか今までは見つけてきてます。いざという時どうしたいのか、お会いしたいのか、逆に関わりたくないのか、事前にそういうことをきちんと聞くようにはしているんです。

    具体的な例でいうと、そう、私の言うことしか聞かない、ちょっと気難しい方(Aさん)の案件がありました。Aさんもご家族とは疎遠になっていて、ご本人に聞いてもご家族がどこにいるのかよくわからない状態だったんです。ただ生活保護を受けていたので、保護課に確認したら北海道に妹さんがいることが判って。そこで保護課を通じてお手紙を送り、連絡を取ることが出来ました。妹さんも久しぶりにお兄さんに会いたいとは仰ってたんですが、北海道から福岡ってそう簡単に移動できる距離じゃない。旅費の問題もあったので、もし亡くなっても行けないと言われたのですが、きちんと妹さんの確認が取れて安心しました。

    そんなAさんの話なのですが、Aさんは私の事務所からは電車と歩きで1時間位かかる場所に住んでいて、ちょっと会いに行くのも大変だったんですが、ある日検査入院が必要になり、一緒に病院まで同行したんですね。病院からは付き添わなくていいって言われたので、入院手続きだけ済ませて帰ってきたら、事務所に帰り着いた途端に病院から電話が掛かってきたんです。何事かと思ったら、本人がどうしても検査を受けないと言っていると。いま帰ってきたばかりで、さすがにまた行くのは難しかったので、その方のケアマネージャーさんに説得を頼んだんですが、全然言うことを聞いてくれなかったみたいで「Aさんは山下さんの言うことしか聞かない」って言われて。施設の介護の方とかにもお願いしたんですが、どうしてもダメでした。仕方がないので、その日は一度退院させて、日を改めて検査入院をすることになったんです。それで次の検査は前回のこともあったのでずっと付き添ったんです。検査当日、検査室の前で待っていると、検査室から病院の先生が出てきて「やっぱ無理だ」って。結局私まで検査室の中に入り、ずっとそばについて、励ましていました。苦しい検査で、暴れそうになるんですが、私が声をかけて励ますと、苦しそうにしながらもじっと耐えて、無事に検査を終えることが出来ました。その時、あぁ本当に私の言うことしか聞かないんだって、びっくりしたんです。その後もやはり私の言うことしか聞かなかったので、大変ではありましたがとても印象に残っていますね。

    他の話だとグルメのBさんの話でしょうか。Bさんはすごく規制が厳しい施設に入居されてる80代の方で糖尿病を患ってるんですけど、食への欲求が半端じゃないんです。なので、何か月かに1回の病院検査のための外出の際、Bさんが何か飲みたいと言われたんです。糖尿病の事は知ってましたが、一緒に同行されていたご家族もたまには本人の好きなものを食べさせてあげたいと言われたので、Bさんが希望された小さいペットボトルのカフェオレを飲ませたんです。そして施設に戻ってカフェオレを飲ませましたって伝えたら、事務所に帰ってから「糖尿病のこと知らないんですか!」ってすごい剣幕で電話が掛かってきたんです。さすがに、その時はちょっと喧嘩になりましたね。本人も家族もそんなに厳密な治療を望んでいるわけでもないのに。80代になって、たった1回カフェオレを飲んだくらいのことで、血糖コントロールが乱れるわけでもなく、合併症が出るわけでもないのに。糖尿病よりも、心疾患や脳疾患など全然違う病気で死ぬ可能性の方が高いですよねって。結局、まあ少しならいいですと施設側も折れてくれました。息子さんも精神疾患のため、おひとりではお母さんを食事に連れ出せないので、私と3人で介護タクシーを使って、回転寿司などたまには食事に行ってもいいっていう許可は取り付けました。
  • 被後見人の方の幸せを、すごく考えてる訳ですね
  • 家族がいないというだけで、老後に楽しいことが何もできないんじゃかわいそうじゃないですか?何のために今まで頑張って生きてきて、しっかりお金も貯めてきたのかわからないですよね。みんな毎日悔いのないように生きないといけないと思います。高齢の方はやっぱりいつ何が起きてもおかしくはないので、いつ最期の時がきてもいいように、悔いが無いように、その人の望みに叶うように今できることをしてあげたいと思ってます。
  • 自分の身内ではない被後見人さんな訳ですが、15件もかかえて正直大変ではないですか?報酬とかもどうでしょう?
  • 大変な時もありますし、たまに同僚に愚痴ったりもします。たしかに後見の数が少なくなると楽だけど、少なくなるのはちょっと嫌ですね。少なくなるってことは、被後見人さんらが亡くなられるってことですからね。やっぱり私、被後見人さんのことをみんな愛しとうけん、誰にも死んでほしくないんです。ああ、最期いい人に看てもらってよかったって思ってもらえるように頑張ってやってます。

    職業としての後見業務ではあるんですが、あまりお金お金って言いたくないんですよ。もちろん色んな考え方があって、仕事として受ける以上報酬がもらえないとちょっと嫌ですっていう意見を聞いたりもします。当然、財産管理という側面では後見は必要なんでしょうけど、お金が無くても身上監護だったり、むしろお金が無い人の方が後見が必要なことが多かったりするので、お金が無いのでやりたくないというのは、ちょっと違うんじゃないかと思ってます。もちろん報酬がもらえない案件ばかりだとちょっと困りますけどね(笑)昨年、リーガルサポートの福岡で20周年のイベントがあり、その時、創設当時から関わってきた司法書士の先生が言われてました。当時は、後見業務は報酬をもらうためではなく、本当に社会貢献の一環として始めてきた事業で、報酬がもらえる案件なんてなかったと。あ、やっぱりそうよねって思いました。

    ただ、報酬が無い案件でも楽しみはあるんですよ。私はお金が無い人はいかに工夫をしてお金を貯めていくのかっていうのを楽しみにしてるんです。支払いが1円でも安くなるように工夫してみたり、振込手数料とかも自分が動けばその分不要になるし、オムツも施設のものを使わず、ドラッグストアで買って持ち込んだ方が安くなる。そうやってちょっとずつプラスにしてくのが楽しみなんですよ。洋服もぼろぼろだったりする人もいるんですが、そういう人にはいただき物だったりフリマなどをうまく使って、安く手に入れて何とか新しいものに替えてあげたりしてます。後見がつくまで生活が荒れてて、わずか数万しか手持ちがなくって、施設費も払っていけるんだろうか?って思ってた人が、今では貯金が40万位できて、よかったなって思うこともあり、そういうので自分で勝手に満足してます。そうやって、どんな案件でも考え方ひとつで、いろんな楽しみを見つけることができると思っています。
  • それでは、今後も後見業務は積極的に続けていかれる訳ですね。
  • そうですね。自分が後見が必要なくらいになるまでは続けていきたいと思っています。



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