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目からうろこの司法書士虎の巻

• 司法書士業界に精通している山口毅氏（株式会社コンサルティングファーム元代表取締役社長）の【現場の課題】をもとに司法書士業務での成功のためのマーケティングに関するお話から失敗しない事務所経営までお役に立つコラムです。是非あなたの事務所のヒントにお役立てください！

• 山口 毅　TAKESHI YAMAGUCHI
• 1988年　司法書士試験合格
  1992年　司法書士事務所開設 代表就任
  2000年　株式会社コンサルティングファーム設立 代表取締役社長就任
  2020年　株式会社コンサルティングファーム代表取締役退任
  　　 　　 個人コンサルタントとして活動中
• 長年、株式会社コンサルティングファームにおいて司法書士の方を対象とした事務所の経営コンサルティング、メンタリング、開業支援、人材紹介、事業承継支援を手がける。現在は司法書士業界の個人コンサルタントとして活動中。

• 第1回
  成長事務所の経営者が必ず考えているマーケティングとマネジメントの論点整理
• 第2回
  マーケットリサーチ①
  社会構造の変化、都市圏と地方とのニーズ
• 第3回マーケットリサーチ②
  クライアント別のマーケットニーズ
  　
• 第4回
  ｢商品開発」
  司法書士が持っている技術･強みをベースにした商品開発
• 第5回
  ｢商品開発」
  顧客ニーズに視点を置いた商品開発
  　
• 第6回
  ｢商品開発」
  司法書士業界の枠を超えた商品開発
  　
• 第7回
  ｢個人向けの新規セールス」
  　
• 第8回
  ｢チャネル向けの新規セールス｣ 前編
• 第8回
  ｢チャネル向けの新規セールス｣ 後編
• 第9回
  ｢既存の個人顧客向けのセールス｣
  　
• 第10回
  ｢既存のチャネル顧客向けのセールス｣
• 第11回
  司法書士事務所の組織運営上の課題
  －ハード面から ｢目的･戦略｣｢構造｣｢制度｣｢業務の手順･技術｣－
• 第12回
  司法書士事務所の組織運営上の課題
  －ハード面から ｢目的･戦略｣｢構造｣｢制度｣｢業務の手順･技術｣－
• 第13回
  司法書士事務所の組織運営上の課題
  －ソフト面から ｢リーダーシップ｣ ｢組織文化や風土｣ ｢部署内コミュニケーション｣ ｢部署間連携｣－
• 第14回　NEW
  司法書士の将来を占う（前編）
• 第14回　NEW
  司法書士の将来を占う（後編）

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• 第9回
• ｢既存の個人顧客向けのセールス」

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• 今回は、「既存の個人向けのセールス」、つまりリピートや紹介をいかに獲得するかについて考えてみたいと思います。
  
  HPから初めて依頼を受けた、不動産売買の買主として知り合った、住宅ローン完済の抹消登記の依頼を受けた、知り合ったきっかけは別として、いったん何らかの関係ができた個人の方から再度依頼をいただくことができれば、マーケティングコストが軽減されるわけですから言うことはありません。しかし実際は、なかなか接点を持った個人客から再度依頼をいただけず苦労されている方が多いように思います。その原因と対策について考えてみましょう。
  
  （１）地理的な問題
  個人客がリピートするための条件の重要なポイントとして、地理的な問題があります。シンプルに言うと、ある程度閉じられた生活圏、経済圏ではリピートしやすく、開かれた生活圏、経済圏ではリピートがしにくいということです。
  
  わたしが会社員をしていたころ2か所目の赴任地が福島県の郡山市でしたが、その時同じ福島県の会津地方を担当している先輩社員に「会津の三泣き」という話を聞かされました。会津はクローズドされた地域で、仕事で最初にお付き合いする際になかなか新参者は受け入れてもらえずに「泣く」、次に長年苦労しながらでも信頼を勝ち得ていくと非常に親身になってもらえるので「泣く」、最後に別の赴任地へ異動が決まって離れる時に名残惜しさで「泣く」という意味です。40年近く前の話なので今はそんなことはないでしょうが、当時一度も会津からでたことがないおばあちゃんのおはなしをまことしやかに話されていました。
  
  このようなクローズドされている地域では人と人との関係性が密なので、良い関係性（仕事でいうと評価される仕事）を保つことができれば時間が経つほど個人客のリピートの可能性が高まるということになります。（逆に言うと、外からの侵入が難しいとも言えます）
  
  いっぽう、東京の山手線の中の地域のように、人がさほど住んでいない、住んでいても人の異動が頻繁で常に人が入れ替わるといったオープンな地域ではリピートしづらいことが容易に想像できます。
  
  つまり、地域密着で個人客からのリピートを狙って仕事をする場合は、なるべくクローズドされた地域を選択するということが重要だということになります。このような仕事のされ方をしている司法書士は、地方の司法書士、都市でも郊外型の司法書士であることはうなずけます。
  
  ただ、もうすでにオープンな地域で仕事をされている方もいらっしゃるでしょう。そのような方は、仮想のクローズな地域を自分で設定し、クローズドなお付き合いができる状況をつくることを考えてみたらよいと思います。一見するとオープンで人と人との関係が希薄な地域でもよく良く観察すると（町内会、商店街、自治会など）地元密着で関係性を保ち生活されている方はいらっしゃるものです。もちろんクローズドされた地域と比較して時間はかかるでしょうが、工夫の余地はあると思います。
  
  
  
  （２）リピートのために欠かせない4つの要素
  地域性はリピートのための一つの重要な要件ですが、もちろんそれだけで自然とリピートが発生するわけではありません。もっというと、リピートの工夫をすれば今以上にもっともっとリピートするのです。
  
  ときどき名刺交換をした方に継続的に年賀状や事務所通信を送っているけどリピートしないと嘆いている方からの相談があります。なぜリピートしないのでしょうか。それはリピートのために欠かせない4つの要素が満たされていないからです。
  
  ① 要素1　世話になったとの印象
  
  みなさんは、「もう一度お願いしてみよう」、「知り合いを紹介しよう」とどんな時に感じますか。
  
  感じがよかった、安かった、ポジティブな印象はいろいろとあると思いますが、私は、「大変お世話になった」との印象が残ったということに尽きると思います。
  
  特に困難な問題を解決して差し上げた場合は、その印象を残しやすいと思いますが、たとえば不動産の取引での買主さんにどうやってそのような印象を持ってもらうことができるでしょうか。通常は不動産の立会の場面で初めて、しかも1時間ほどの残金決裁の場で「大変お世話になった」と感じていただくことは非常に困難です。日本では不動産の持家世帯率は6割を超えます。ということは6割の世帯の方と司法書士は売買や相続など何らかの形で接触があるにもかかわらず、どうも司法書士の印象が薄い。その原因はここにあると思います。
  
  それではどうすれば印象を残すことができるのでしょうか。今よりは手間暇はかかりますが、「完了書類を届ける」しかないのではないかと思います。自分が買主の立場に立ってみるとわかりますが、初めて不動産を購入した際に、司法書士から何やら難しい書類が大量に送られてきて、しかも送り状を見てもよくわからない、とりあえず大事に保存してくださいとなっているから、売買契約書と一緒にしておこうか。という感じではないでしょうか。いかにも不親切です。
  
  一方、司法書士が休日に訪ねてきて、書類の説明をしたいというので会ってみたら、登記の仕組みの説明から、自分の権利が完全に確保され、登記識別情報の意味も理解できたので、大事に保存しなければならないことを認識した。と言うことではどうでしょうか。おそらく買主さんはそこで初めて登記の本当の意味、司法書士の役割について認識されるのではないでしょうか。
  
  リピートや紹介のための一番重要な要素は、この「大変世話になった」という感覚です。
  
  ② 要素２　何ができるかの説明
  
  売買取引の買主さんを続けて題材にしながら、二つ目の要素を考えてみます。
  
  自宅まで訪ねてくれた司法書士に「大変世話になった」と感じつつも、買主さんは、「でも私は今後家を買う予定もないので、この人に世話になることは当分ないだろうな」と思うはずです。司法書士は当然のことながら、自分たちが提供するサービスをよく知っていますが、一方で、世の中のほとんどの人は司法書士ができるサービスを知らない、と言うことにあまり気づいていません。
  
  二つ目の要素は、そうです、自分ができることをきちんと説明するということです。さらっと、パンフレットなどを使いながら、司法書士が街の法律家、個人の方にいかに役立てる身近な存在かをきちんと説明するということです。事務所でパンフレットをつくっていないのなら、司法書士会がつくっている司法書士を説明するリーフレットなどもあるでしょうから、うまく利用すればいかがでしょうか。
  
  ③ 要素3　忘れられない工夫
  
  そして次に、忘れられないという年賀状、事務所通信が登場します。不動産を購入された1年後に自筆ではがきを出すなんて言うのも素敵ですよね。
  
  ④ 要素４　敷居の高さを取り除く
  
  最後は敷居の高さを取り除くということです。私たちにとってはその方は多くの手続をして差し上げた方々の一人ですが、その方にとって司法書士はあなた一人です。確かに世話になって、「いつでもお気軽にご相談ください」とは言われたが、果たして私のことを覚えているだろうか、とその方は思っているはずです。
  
  もし、その方から電話がかかってきたときに、あなたが「どなたでしたっけ」といった態度をとろうものなら、「やっぱり。自分はone of themだ」ということになってしまうでしょう。最近はCTIなる便利な代物がありますが、なかなかそこまでも投資はできないでしょうから、私は診察券方式をお勧めしています。つまり、通し番号を振ってお客様カルテ（お客様の基礎情報を入力したカルテ）と連動させたカードをお客様にお渡ししておき、「次に何かございましたら、連絡いただく際にお客様番号をおっしゃってください」とお伝えしておくのです。
  
  お客さまは敷居の高さを感じずに、「私のことを理解してくれている」司法書士事務所に依頼することができるのです。
  
  以上のように、リピート、紹介を受けるためには基本的な４要素が必要です。少なくとも要素１は必須と言うことはご理解いただけたのではないでしょうか。
  
  
  
  
  （３）ほったらかしにしないこと
  みなさんは、もう少し前に連絡を差し上げておけば（いただいていたら）、こんな事態にはならなかったのに。ということを経験されたことはないでしょうか。
  
  リピートを取りに行く、と考えると、なにやら営業っぽくて多少いやらしさが出てきますが「ほったらかしにしない」と考えることが相手のためになることは多々あります。そのひとつが遺言をした後のメンテナンス予約です。
  
  私がこれを発想したのは、歯医者のメンテナンス予約です。私が通っている歯医者さんは行くと必ず半年先の予約を取るシステムになっています。最初はめんどうくさいな、歯医者なんか行きたくないのに、と思っていたのですが、行くごとにメンテナンスをしてくれますし、自己メンテナンスの指導もしてくれます。半年もすると歯の状況も変化しますし、早めの治療も可能です。
  
  遺言をつくって時間が経つと取り巻く環境、気持ちも変わるものです。年齢もいっていますから、何かと困ったこと、心配事も増えてきます。
  
  重い腰ではありますが、年に１回せっかくとった予約だから、と行きはじめると、司法書士はその時々で適切な助言もしてくれるし。相談にも乗ってくれる、そんな存在に自然となってもらえるように促すわけです。
  
  ちなみに、歯のメンテナンス料は驚くほど安く、歯科衛生士の人件費が出るのかなと思うほどです。その時の相談料で採算を合わせようとせずに気軽にメンテナンスとの発想、ぜひ一度お試しになってみてください。
  
  （４）事務所全体で感じていただくこと
  もう一つリピートいただくということで意識したいことは、〇〇さんに世話になったからとか、あの人がいるからまた頼もう、というように特定の個人に依存する形でのリピートになるべくしない工夫をするということだと思います。自分にリピートするということはやりがいにつながりますし、気持ちの良いものです。一方でその方が不在の時、事務所を退職された場合は逆にそのことがリピートしない、敷居が高くなる原因にもなりかねません。
  
  長期にわたって信用を得てリピートしていただく事務所とするためには、またお願いしたいと事務所全体で感じていただく、サービス提供した方がいない場合でも安心して頼んでいただけるそのような仕組みをつくることは重要だということを意識されたらよいと思います。
  
  今回は、特に個人の方に絞って、いかにリピートしていただけるか、ご紹介をいただけるかについての考え方をお話ししました。
  
  次回は、「既存のチャネル顧客向けのセールス」、つまりリピートや紹介をいかに獲得するかについて考えてみたいと思います。
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